008 はじめてのオペ⑤ 穿頭(トレパネーション)

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 ヤンゼンでしっかり傷口を開いたら、いよいよ頭蓋骨に1円玉大の穴を開けます。この穴をバーホール(burr hole)と呼びます。このように小さな穴を頭蓋骨に開けることで行う手術をひっくるめて穿頭術(せんとうじゅつ)と呼びます。あんまり現場では使われない言葉ですが横文字ではトレパナチオン(トレパネーション、trepanation)と呼びます。
 そうです、
ス◯リッツの某漫画(ホ◯ンク◯ス)でやってらしゃったアレですね。ちなみに私や同僚の先生がこれまで穿頭した患者さんで、他人の深層心理がロボットとか砂人間みたいに見えるようになった人はいません。そんな人の実例は聞いたことがないです……興味本位でトレパネーションを受けるのはやめましょう。

 穿頭する際には、原始的ですが手回し式のドリルでガリガリ削っていきます。最近は電動もしくは空気圧で回転する穿頭用のドリル(パーフォレーター)を穿頭術の際に使用する病院もあるようです。
 手回しドリルの場合、調子にのってガンガン削りまくっていると突然ズボッと貫通して、ドリルが脳に刺さってしまう、という恐ろしい事故が起こりえます。私も先輩から、「◯◯病院の✕✕先生も昔ドリルで脳損傷やっちまったらしいぞ~」とか相当おどされました。
 穴あけ作業の後半まで来たら、「10~20回転くらい回したらいったん手を止めて削れ具合を確認する」という工程を繰り返します。慣れてくるとドリルの刃先の感触で「もうすぐ削り終わりだな」ってのが何となく分かります。最後にもうちょっと大きな刃先(閉じた状態の番傘みたいなヤツ)に交換して仕上げの削りを入れます。最初は上のように細かく確認しすぎてしまいましたが、脳を損傷してしまうよりはずっとマシだったはずです……たぶん。
 ちなみにパーフォレーターという自動のドリルはよくできていて、穴を開け終わるとその後は勝手に刃先が空回りするような構造になっています。もっと大きく頭蓋骨を開放して行う手術(開頭術)ではパーフォレーターが使用されます。何箇所もバーホールを開けておいて、それらをクラニオトームという電動糸ノコ(というか先端が保護された極細のドリル)みたいなヤツで切ってつなげて、頭蓋骨の一部を取り外します。
  穿頭術において安全なパーフォレーターでなく手回しドリルがまだまだ使われている理由はおそらく、
①脳外科医たるもの手回しドリルの使い方も習得しておくべきである
②ディスポ(使い捨て)の高価な(1万円以上します)パーフォレーターをただ1回穴を開けるだけの穿頭術に使うのはもったいない
 といったところでしょうか。仕方がない側面もあるのでしょうね。