ホントにわざとじゃないんですが、最初に鋭匙を使ったときは指導医の顔に骨くずをぶつけて怒られました。ここまで大量ではなかったですけど。患者さんの意識があるにも関わらず、ここに描いたのとは比べ物にならないくらいに叱られましたので、後日患者さんから「先生、手術のとき怒られてたね」とイジられました。
ドリルで頭蓋骨に穴を開けた後、穴の底の部分に少し骨の出っぱりが残っています。プラモデルでいうところの「バリ」みたいな感じのやつです。これを極小のスプーンみたいな形の鋭匙(えいひ)で削りとっていきます。
鋭匙を使うときは、ドリルと同じですがズボッと脳に突き刺さらないようにすることが一番重要です。さらに、骨のすぐ裏側に貼りついている硬膜という膜を骨から剥がさないように気をつけなければなりません。硬膜を骨から剥がしてしまうとそのスキマから出血してきますので、不必要に剥がすと後の処理が大変になります。
私の描いた図があまりよろしくないのですが、鋭匙は先端部分ではなく横っ腹で削るようにして使わなければなりません。「鋭匙の先端部分を作用点、バーホールのフチを支点」にするようなテコの原理で骨を削ると、パキパキと楽に削れて骨くずがよく飛びますが、鋭匙が刺さったり硬膜が剥がれたりといった危険な事態が起こりやすくなります。上手い人は骨くずをあんまり飛ばしません。
余談になりますが、自動のドリルを使う際など、下っぱ助手がピュッと水をかけて骨くずを吹き飛ばしたり、ドリルの熱を冷やしたりしなければならないことがあります。この際、「ドリルで跳ね飛ばされた水がなぜか上司の顔とか眼にかかってしまう」というマーフィーの法則みたいな事態がよく起こります(まあ水のかけ方がヘタクソなだけなのでしょうが)。