リュエル鉗子(リュエルかんし=Luer forceps)は単にリュエルとも呼ばれる器械です。ペンチに似ていますが、先端の挟む部分は平坦ではなく、中央部が窪んだ形になっています。ちょうど計量用のスプーン(大さじや小さじ)が2つ向かい合わせになるような形です。
この鉗子でぐっと骨の縁をはさみ込むとバキッと割れます。 まずは図に点線で描いたように側頭部の骨を足の方に向かって削り足します。この部分は側頭筋がジャマでドリルが入りづらいので、後からリュエルを使って骨を削るわけです。
また、図のなかで頭蓋骨が内側にでっぱっている部分があります。この部分は蝶形骨縁(ちょうけいこつえん=sphenoid ridge)という名前の出っ張りです。前頭側頭開頭(pterional approach)の際はなるべく奥の方まで削除しておく必要があります。
骨をかじり取る際にリュエル全体をこじったりねじったりすると一気に大きく骨を切り取れますが、硬膜も一緒に引きちぎってしまう危険があるのでやってはいけません。まっすぐ握りこむ方が安全です。4コマでは描写を省略しましたが、骨をかじる前には必ずその部分の硬膜を硬膜剥離子などで剥がしておくことも必要です。
リュエル先端の窪みには削った骨が目詰りするので、1回削るたびに目詰りした骨のカケラを助手か直介がガーゼで取り除かなければなりません(これも割愛しました。いつかこの辺りの話も描く予定です)。
このような操作をcraniectomy(骨削除)と呼びます。 開頭(craniotomy)とは異なり、切り取った骨を元の位置に戻して固定することはできませんので、骨削除を行った部分は骨がたりなくなります。
頭蓋骨の欠損が残ると頭の一部がヘコんでしまうことがあります。美容的に好ましくないので骨の足りない部分には骨削除でできた骨クズを入れたり、パテのような人工の骨で埋めたり、チタン製のメッシュで塞いだりすることもあります。